慟哭
さすがに指が熱かったのか、びくっと手を振りタバコを離した。
ぐっとその指を握り込むようにしているしんちゃんは…その背中を見てても、つらそうなのがよくわかる。
それは熱かった指のことではなくて。
それに…何となく、しんちゃんがとても動揺しているようにも見える。
とりあえず今しんちゃんの頭の中には私はいない、と断言できる。
ここに私がいるという違和感がやっぱり抜けなくて、もういても立ってもいられなくなった。
ここにいたくない。
私はドアを開け、外に出た。
さっき降っていた雪は、いつの間にかうっすらと外を白くさせていた。
しんちゃん家の庭にあるゴールドクレストの木がクリスマス仕様に飾られているけど、それも白くなってる。
暖かい車から出ると、途端に震えるほどの寒さが襲ってくる。
助手席のドアを閉めた。
その音でしんちゃんは、まるで知らない間に居た人を見るようにビクッとしながら私に振り返った。
そしてすぐ、なんとも言えない表情になった。
困ったような、ふて腐れてるような、怒ってるような…それでもどこか泣きそうな…
そんなしんちゃん、見たことなかった。
見ていたくなかった。
「帰るね…」
私はそう言ってしんちゃんの視線を反らし、車から離れた。
「利香」
とても静かな声でしんちゃんが私を呼んだ。
とがめる感じも怒ってる感じもない…その声に、振り返るしかなかった。
しんちゃんはゆっくり私の前まで歩いてきた。
「…ごめんな」
一言そう言った。
いろんな意味が込められているであろうその言葉に、私はただ頷いた。
「あ、利香」
歩き出そうとした私に、しんちゃんはコートの内側のポケットを探り、なにかを取り出した。
「やる」
差し出されたしんちゃんの手を受けるように、反射的に私も手を出した。