慟哭
ちいさな、深紅の箱。
女の子なら誰だってその箱の中身がわかるはず。
手の平に受けてしまったそれは、小さいのに妙な重量感。
「えっ…しんちゃん、これっ…えっ…なに、ええぇっ…」
ちょっと待って…
私の頭のなかは、もうパニック。
このしっとりとしてかつツヤのある、毛足が長めなこの布の感触、しかもこの形、こんもりした屋根の形の蓋、四角形、この大きさ…
もしかして、いやもしかしなくても、間違いなくこれはっ!
ゆ び わ !
いーや、ちょっと待って、こんなのもらったらだめじゃん、しんちゃんてばなんで?
なかば放り投げそうな勢いで、しんちゃんに返そうとした。
「しんちゃん、もらえないって!」
しんちゃんに差し出すものの、俺様はもうすっかり復活を遂げていた。
「俺がやるっつってんだから持ってけ」
はーーっ?!
「だってっ!しんちゃんなんでこんなのくれるのっ?そんな、わるいじゃんっ」
…私の放った言葉のなにかが気に入らなかったらしく、俺様しんちゃんの眉間のシワがさらに深くなった。
「…なんでくれるのってオメェが俺に聞くことかよ?まだわかってねえのか、コラ」
ひいぃぃっ
間近に迫ったしんちゃんの怒り顔のあまりの怖さに、私はあっさりと言ってしまった。
「あああありがとっ」
押し付け状態のその小さな箱をにぎりしめて、お礼を言ってしまっていた。
ああああっ?
アタシってばお礼を言うなんてっ
手の平のその箱は、小さくて軽いけど…存在感がハンパなくて。
やっぱり返すべきでしょーっ
「あっ…でもね、しんちゃん、これはちょっとっ…」
私が箱から視線を上げると、しんちゃんはもう背中を向けていて。
車のドアを開けながら、
「早く帰れよ」
…去ってしまった。