慟哭



 …そうだ、自販機。


 再び自販機に向かって歩き出したけど…振り返る。


 さっきの彼は小さな男の子におもちゃの飛行機を渡し、なにか話し掛けた。


 そして男の子の前にペタッと座り、視線を合わせるようにして男の子の頭をぐりぐりした。


 飛行機を指差してなにか説明でもしてるのか、にこにこ笑いながら男の子に話してて。男の子もふんふん、といったかんじでコクコクと頷きながら真剣に聞いている。


 はたから見ていてとてもほほえましい。そんな二人から目が離せない。



 いや、彼から、だ。



 自販機だってば。



 えいやっと足を動かして二人に背を向け歩き出した。


 里美にはコーラを、私はオレンジジュースを買って。


 でも頭の中は、さっきの彼のことでいっぱいだった。


 高校生…ではないと思う、大人な雰囲気だったし。あ、まさかあの男の子は子供?でもパパにしては若すぎる気が…うーん。


 私は、図書館に戻る途中の道でさっきの二人を目で探していた。


 …いない。


 どうしてかもう一度彼が見たくて、図書館に戻らず暑い真昼の公園をまわりはじめてしまった私。


 汗が流れ、肌はじりじりと真夏の太陽に焼かれていた。






「…ものすごい中途半端な温度で飲むコーラってさいあく」 


「ごめん…」


 結局、このだだっ広い公園をがっつり2周し、図書館に戻ったのは軽く30分以上経過していて(里美いわく、45分)コーラもオレンジジュースも程よいヌルさになってた。


 髪も服も汗だくで、ノースリーブの肩はヒリッとするほど焼けて、顔もサルのように真っ赤。


 不思議な感覚に自分でもびっくりだった。どうしてももう一度彼が見たかった。


 そして彼を探して歩いたそんな自分にも、かなりびっくりしていた。


 それから私は夏休み中、通学路でもあるこの公園を通るたび、あの彼を探した。


 図書館にいたのは土曜日だったから、用がない限り図書館に行きつつ公園に彼を探した。


 だけど彼を見つけることはなかった。




< 6 / 39 >

この作品をシェア

pagetop