慟哭


 図書館で里美と別れて、自転車置き場へ向かった。



 サドルが太陽に照らされて熱くて、乗る気にならない。



 カバンを前のカゴに乗せて自転車をひいて歩く。



 …久しぶりに、回ってみようかな。



 夏休み中はあの男の人を探してよく歩いて回ったこの公園。



 あの日も暑かったし、今日もすごく暑かったけど…さすがに夕方になると、9月の夕方はちょっと違う涼しさをみせる。



 …ここだったな。



 おもちゃの飛行機が私のおでこに当たった場所。



 大丈夫です、とかなんとか言えばいいものを、全く一言も発せずにいたんだっけ。



 もう一度会えたら。



 夏とは違う葉っぱの色、風、緑の匂い。容赦なく進む時間。



 …帰ろう。



 そううまくはいかないな。



 たった一度会っただけでこんなにも気になるのはなんでだろう。



 もう一度会えたら理由がわかるような気もしたんだけど。



 いやいや、やるべきことは、来週からのテスト勉強。さっさと帰って勉強しないと。



 それでもぐるっと一周まわってから自転車に乗って、公園を出た。



 家と図書館のちょうど中間あたりにあるコンビニで、無くなりかけてたシャープペンの芯とジュースを買う。



 公園をまわったせいか喉が渇いてた。



 コンビニの駐車場で、家に到着するまえにジュースを飲む。



 まだ外は十分明るいけど、陽はもう落ちかけてる。



 夕焼けがとてもキレイで、思わずペットボトルをにぎりしめたままぼーっと見入っていた。



 夕焼けの次の日は晴れるんだっけ。



 明日もいい天気で暑くなるんだろうな、なんてボンヤリ考えていたとき。



 目の前をスーツを着た、長身の影が通り過ぎた。



「あっ…!」 



 思わず声を上げた私を、



 そのスーツの男の人が振り返る。



「お、利香じゃん」



 私が呼び掛けたのは、しんちゃん。



 平田 伸吾(シンゴ)、私の幼なじみだ。



< 9 / 39 >

この作品をシェア

pagetop