僕等の怪談(1)
昔は人間だった筈の落ち武者達の目は底がないのか真っ暗で目が合うだけで金縛りにあいそうだ。
甲冑で全身を覆っているから全体像は侍なのに、でも甲冑からはみ出た身体だった部分は腐ってただれて溶け出しそうだった。
髪は一様にボサボサで意思を持つようにうねっている。
僕は2人の手を引っぱってとにかくその場から逃げ出そうとした。
でも2人は逆に前に一歩踏み出したから、僕も引き吊られてしまった。
「何する気なの。逃げなきゃ。」
僕は夢中で叫んだ。
「多分あれは俺達が呼び覚ましたんだ。このまま逃げて知らんぷりできるか。」
「お札貸して。」
淳が僕に手を差し出した。
「何?」
僕はとっさにお札を後ろ手に隠した。
「お札貸して。あいつらに貼り付けてくるから。」

淳の強い意思と言葉に僕もお腹の底に小さな勇気とも思えるものが生まれた。
「これは淳君が僕にくれたんだ。僕も行く。」
「俺だって札はないけどお前達と一諸に行くぞ。」

僕達は3人一諸に体育館の中央へと歩みを進めた。
でも足がすくんで全然前に出ない。
冷や汗が身体中を流れていく。
「あの落ち武者達、もしかしたら体育館中央から動けないんじゃない?」
僕は気が動転する中で、それでも落ち武者が自分達に近づいてきていない事を二人に伝えた。
「違う。俺達に気付いてないんだ。。」
淳は何か方法はないか考えていた。
「考えたって俺達にある武器はお札とお守りだけなんだ。気付くのも時間の問題だろ。」
遠藤が精一杯の強がりで自分と僕達の背中を押しているのが分かる。
「よし一気に行くぞ。」
僕達は淳の「それぇー」という合図で体育館の中央まで走った。
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