僕等の怪談(1)
「今だ。」
僕達は落ち武者達にギリギリまで近付いて、お札とお守りを投げつけた。
「ゴゴグゲゴゴゴ」
お札とお守りのあたった何体かの落ち武者がその場に立ちすくんだり崩れて動かなくなった。
「うわあっ」
でもその他大勢の暗い目をした落ち武者が僕達に覆いかぶさってきた。
その手はやっぱり腐っていて、ただれていて、肉の焼けた臭いがした。
筋張ったガリガリの手が僕達に伸びる。
やられる。と思った寸前、目の端に青白い光りがチラついた。
「そなたたち、よく戦ってくれました。」
慈愛に満ちた優しい声が頭に直接語りかくてくる。
僕達はその声を一瞬自分達に向けられたのだと錯覚した。
声の主は着物をきた女性の霊。
彼女が落ち武者達の真ん中にすーっと入り込んで行く。
「姫様、桂姫様、ご無事でございましたか。」
落ち武者達は我先にと膝をおり頭(こうべ)を垂れた。
「そち達のお蔭じゃ。さあ殿も待っておる。一諸に参りましょうぞ。」
女性を包んでいた青白い光りが、少しずつ広がって、落ち武者達を包み込んでいく。
「我等は姫様を守れたぞ・・・」
「殿が我等を待っていて・・・」
そんな声が聞こえて消えていった。

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