僕等の怪談(1)
足に絡み付き、前に突き進むのを止めようとするモノがある。
それとも前に進む事を拒む自分の意志が、絡み付いているのか?
「はあ、はあ、はあ」
普段なら簡単に駆け上れる距離が遠く感じる。
一段一段上る度に冷や汗が流れた。
緊張の糸が張り詰めて、もう少しで吐きそうだ。と思ったその瞬間に僕は歩みを止めた。
「待って、行かないで。」
僕は必死で目の前を行く2人を呼び止めた。
いや、呼び止めたつもりだった。
声が出ていない。
ぐいっ
2人の腕を掴んだまま歩みが止まって、僕が2人の腕を引っぱる形となった。
「なんだ?」
「どうした?」
2人が同時に振り返る。
「ひっ」
2人の顔を見れば分かる。
僕の身体に絡み付くモノの正体。
肩から鎖骨、胸へと伸ばされる細い腕。
絡み付くべっとりした黒髪。
ザワリッ
背中を走る悪寒は産まれて初めて味わう強烈なものだった。
「助けて」
その一言が口に出来ない。
2人の腕を掴んでいた手が振りほどかれた。
置いていかれる。
その時の絶望感は、どう言い表せばいいのだろう。
鉛を流し込まれたように胃が重くて、まるでそこに心臓があるみたいに脈を打っていく。
手足の先が冷たく凍りつく。
< 55 / 61 >

この作品をシェア

pagetop