僕等の怪談(1)
「だって、こんな時間に音楽室に誰かいるなんておかしいよ。」
僕は今直ぐ駆け出してこの場から逃げ出したかった。
でも本当は一人で逃げる勇気がなかったのかな?ううん、そうじゃない。ちょっとだけ音楽室をのぞいてみたかったんだ。
「淳、お前はどうなんだ?」
この時の遠藤も自分では淳に同意して欲しいのか反対して欲しいのか分からなかったんだと思う。
「二人が一諸なら行くよ。だってここまで来ちゃったんだしね。」
淳も右手の拳を握りしめて勇気を振り絞っていた。
「僕も行く。」
僕の言葉で3人とも止まっていた足を前に出して歩き始めた。
音楽室は直ぐ目の前に迫っている。
聞こえてくるのは声だけじゃない。ちょっと下手なピアノと笛の音も聞こえる。
ドアの前に立った時、僕達は一瞬をなんて長く感じた事だろう。
僕達はお互いのノドがゴクリとなるのを合図にしてドアを一気に開けた。
「わあぁぁ」
僕達は目を見開いた一瞬後に叫んで逃げ出そうとした。
でも逃げられなかった。僕がつまずいて転んだのを先に駆け出していた遠藤も淳も、ちゃんと振り向いて助け起こそうとしてくれたんだ。

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