森へ行く君のとなり
全ては突然

竹馬の友

子どもの足でも歩いて一分。

初めて行ったのは、寒い冬の日。どんよりと厚い雲が、もうすぐ天気が崩れる予感を示していた。

親同士のお茶会に手を引いて連れていかれたのだ。


初対面はお互い親の膝の裏に隠れて、玄関先でしばらく動けなかった。

あっちは一段高い位置からこっちを見下ろしていて。

その澄んだ目に見据えられて動けなかったというのが本当のところかもしれない。

母親はそんなことお構いなしに、挨拶を交わしながら丁寧に靴を脱ぎ、私の靴も脱がせる。

ようやく同じ高さに立った時に、相手のお母さんが自分の子どもに声をかけた。

その子も頷くと、ようやく母親の膝の裏から出てきて、真っ直ぐに手を伸ばした。


「おいで」

ただ伸ばされた小さな手をじっと見ていた私の手をきゅっと握ると、部屋の方へ手を引いた。

「いっしょに絵本よもう」

まだ字を全部読めない私はびっくりして見つめ返したのだけど、もうその子は背を向けて私を引っ張るのみで。


力強いその背中にただついていった。



暖かい室内で、その子は大きな声で絵本を読んでくれた。
たどたどしくも、真っ直ぐな声で。


家を追い出された兄妹が魔女の家に辿り着く話。

恐ろしい話のはずだけど、その子の真剣な声は光の方へ真っ直ぐと私を導いてくれるようで、全然怖くなかったのを今でも覚えている。



あれから10年経つけれど、あの日のことは年を増す毎に色濃くなっていく。




彼とは5年半前から音信不通だ。
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