引き金引いてサヨウナラ
バカげた考えだ、と美菜は叶に気付かれないよう小さく頭をふり、思考を追い払った。
美菜にこの町の良さを思い出させてくれたのは、ほかでもない叶なのだ。
この町らしさが無くなってしまったら、悲しむのはきっと叶も同じ。
隣を歩く叶の顔を、そっと覗き見る。
元々口数の多くない叶だが、何か考え事でもしていたのか、美菜が話し掛けない間、ずっと無言で歩いていた。
美菜はちょっと後ろめたく感じ、ゆっくりと叶から視線を外す。
「美菜」
気付けば分かれ道にきていて、叶が突然立ち止まり、名前を呼んだ。
美菜の視線が叶を向くと、叶は少しためらったあと「じゃ、また明日」と言った。
本当は違うことを言いたいのに言えなかった風な叶へ、美菜は追及することなく頷いて、手を振った。