引き金引いてサヨウナラ
美菜がニュースを眺めたままいると、柚江がパートから帰ってきた。
「美菜、帰ってたの」
いつもより早い娘の帰りに動じることなく、エプロンを身につけながら柚江は言った。
「おかえり」
テレビから目を離すことなく、美菜が答える。
学校が少し早く終わったのだとは、なんとなく言えないでいた。
柚江はキッチンでがさごそとしながら、ニュースを聞いているようだ。
美菜は振り返らずに、柚江へ問い掛けた。
「ねぇお母さん。このまま戦争するの?」
「知らないわよ。
お父さんなら世界情勢に詳しいから、お父さんにききなさい」
美菜は、小学校の宿題も『お父さんにききなさい』と言われたことを、ふと思い出した。
明確な答えが欲しいわけじゃない。
漠然とした不安を打ち消したくて、言葉にしただけだ。
柚江は応えるのを放棄しているのではなく、父と娘に接点を持たせようとしているのかもしれない。
いざという時、頼りになるのは父親だと刷り込みたいのか、父親の権威を守りたいのか。
しかしそれも今朝の頼りなさでオシャカだけどね、と美菜は心の内で呟いた。