引き金引いてサヨウナラ


夕飯の出来上がったころ、いつもより早く達也が帰ってきた。


こんなときにまで、残業をさせるほどの会社が日本には多そうだけど、と柚江は心配していたようだ。


美菜も、心の奥でホッとした自分を感じていた。


頼りにならないとレッテルを貼った父親でも、やっぱりいないよりはいた方がいいということか。


口には出さないけど、自分はそう感じているらしい。


食卓を囲み、誰に言うでもなく美菜は、宣戦布告により今日学校が早く終わったことを喋った。


柚江は返事をしたが、達也は黙ったままだ。


美菜がためらいがちに達也へ話し掛けた。


「どうして宣戦布告なんてしてきたの?」


ニュースでは色々と言っていたようだけれども、時事に全く興味のなかった美菜には、付け焼き刃の知識すら定着しなかったのだ。


達也は少し考え、言葉を選ぶようにゆっくりと言った。


「色々な要因が重なったんだ。
領海問題、反日感情……そして軍の正当化保持」


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