引き金引いてサヨウナラ
「じゃ、お父さん先に入ったら?」
柚江に声を掛けられ、達也は生返事をした。
美菜はそんな二人に抗議の声をあげた。
「えっ!? やだ! お父さんの前に入る」
達也が生返事だったのは、娘がこういう反応をするとわかっていたからなのだろう。
「美菜はテレビ見たら入るんでしょう」
毎度のことながら、柚江は呆れた顔で美菜の後頭部に話し掛けた。
「だから、お父さんはそのあと!!」
「そんなこと言ってないで。なら入っちゃいなさい」
パチンといきなり柚江にテレビを消され、美菜は文句を言いながらも渋々立ち上がった。
反論しても長引くだけ無駄なのは、今までの経験で身にしみている。
家庭を切り盛りしている母に、扶養されている身では口で勝てるわけがないのだ。
口惜しさを、唇を尖らすことで体現しながら、美菜はリビングを出た。