71
「歩こっか」
「うん」
駅から家までの45分の道のりを、2時間以上かけて帰った。
ゆっくりゆっくり。
今までのサッカー人生を振り返るかのように。
握られた手は、1度も離されることがなかった。
月が不気味な色をしていたことを覚えている。
真夏のわりに涼しい夜だった。
「はぁ・・・・・・終わったんかぁ」
涼くんは夜空を見上げてそう呟いた。
そのまま、その場に座り込んで・・・・・・
我慢していた涙を流した。
「いやや・・・・・・俺、終わりたくない。もっとサッカーしたいって・・・・・・」
涼くんの涙が月明かりに照らされて
キラキラと輝く。
2人でしゃがみ込んだまま、泣き続けた。
何も言えなかった。
長かった涼くんのサッカー人生が今、終わったんだ。
サッカーだけを愛し続けてきた涼くんからサッカーを奪ったら・・・・・・
どうなるんだろう。
進路。
就職。
現実的な言葉ばかりが私達の頭の上にのしかかる。
付き合ってからずっと・・・・・・正直言えば、サッカーを恨んでいた。
毎日毎日、サッカーの練習で夜遅くまで帰らない涼くん。
休みの日も部活があって、デートらしいデートもできなかった。
部活帰りのクタクタになった涼くんに、
「もっと会いたい」
なんて
言えるわけもなく。