71
そんな変に大人だった小学校5年生の私の目に飛び込んできたのが、『涼くん』だった。
一目惚れって言うのが何なのかわからなかったけど、きっと好きになるのに1分もかからなかった。
子供とは思えない整った顔立ちに、優しい笑顔。
気付いたときには、私の心は涼くんでいっぱいだった。
人気者でいつもクラスの中心にいた涼くんは、女の子から時々『セブンイッチ』と呼ばれてた。
…それは、涼くんの背番号。
背番号『71』
それを知ってから、私の記念日に名前が付くようになった。
『セブンイッチ、算プの日』
とか
『セブンイッチ、かくれんぼの日』
とか
『セブンイッチ、フォークダンスの日』
とか
『セブンイッチ、劇の日』
どれだけたくさんの記念日があっただろう。
『算プの日』っていうのは、算数プリントの間違いを涼くんが指摘してくれた日のこと。
「これ、間違ってんちゃん?」
その一言だけ。
『劇の日』っていうのは、体育館で隣の席で演劇を見た日のこと。
隣にいる涼くんが気になって、劇をほとんど覚えていなかった。
息ができなくなるくらいにドキドキした。
生まれて初めての体験だった。
とにかく、毎日が『涼くん』のことだけだった。
「学校で一番サッカーうまいねんで」
友達からそう聞いて、毎週土曜日は涼くんのサッカーの練習を見に行った。
小学5年生だけど、
大人の恋と変わらない。
信じられないかもしれないけど、今の恋愛と変わらないくらい真剣だった。
もしかしたら、大人になってからよりも真剣だったかもしれない。