雨空と薔薇
両親が溺愛している
こいつは、
彼らの目を盗み、
笑美の心に
鮮烈な痛みを
与えるのが
愉しみだったようだ。
いや、両親も
知っていて、
見ぬフリをしていた
のかもしれない。
なにせ溺愛されていたのだ。
三十をとっくに
過ぎても、
働きに出もしないで
家で遊んでいた。
笑美は彼女を
エレベータに押し
戻すために、
一歩彼女に近寄る
だけで良かった。
彼女は笑美が
近づくことさえ
汚らわしいと
思っているので、
自分から、
弾けるように
身を引いた。
エレベーターの
中に入ると、
扉は二人を
閉じ込めて閉まった。
姉は可愛い顔を歪めた。
「どけ」