アタシと王子様


「もぅ!痛いんですけど…」



「桃花ちゃんが悪いね」



掴まれた手首はうっすらと赤くなっている。



「ねぇ…俺の噂ってロクでもないでしょ?」



手首をさすりながら突拍子もない事を聞いた先輩に視線を向ける。



「知ってるよ、何だっけな…愛を売る王子様だっけ?」



「いきなり何の話ですか?」



ゆっくり流れていく雲を見上げてハハッと笑う先輩…


「愛を売るって…スゴイよね?売れるのかな?幾らぐらいかな?…そんなの…俺は持ってねぇのに…」



「…持ってないって」



「愛なんて重くて大変そうなモン持ってないよ」



「……先輩」



「あ〜…眠い、ちょっと寝るね?チャイム鳴ったら起こして」



その言葉の意味も先輩の気持ちも聞きそびれたまま、時間は過ぎた。


< 178 / 192 >

この作品をシェア

pagetop