Melody Honey
「弘前さん?」

大沢くんが私の名前を呼んだので、
「えっ…ああ、ごめんね」

私は伸ばしていた手を引っ込めた。

もう、こんな時に何を考えているのよ!

そう思いながら、急いで記憶を消そうとした。

でも…やっぱり思い出すのは、桐生のことだった。

ささやかれるテナーボイスに厚い唇、楽器しか知らないような指…私は一体何をしているんだ?

「ごちそうさま」

大沢くんがそう言って、茶碗のうえに割り箸を置いた。

「えっ、もう食べたの!?」

私は急ピッチでご飯を口にかきこんだ。
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