サイレントナイト~赤くて静かな夜~
人影のなくなった真夜中の旧道を、ユキオはフラフラと歩いていた。
もつれた足取りは、黒いアスファルトに不規則な足音を刻む。
平均より少し大きな体は、右に左にぐらぐらと揺れる。

昼間から飲み続けていたビールはユキオの思考力を完全に麻痺させた。
シルバーにブリーチした髪は前髪が目にかかり、その間からは一重の細い目が覗いていた。

背広を来た中年男性が、すれ違い様、ユキオの虚ろな目と視線が合った瞬間あわてて目をそらして小走りに立ち去っていく。

いつもなら

「死ねくそオヤジ」

と冗談まじりにヤジをとばすユキオだが、その日に限っては自分を一層イライラさせる行為に思えた。

「何避けてんだくそジジイ
あの世に連れてくぞ」

勢いよく振り返った瞬間、頭と同時に目がぐるっと回る。バランスを崩したユキオはその場に膝をついた。

手にしていたビールの缶がガツンと鈍い音をたてて落ち、泡の混じった黄色い液体がアスファルトの色を変えていく。

昼間から飲み続けたビールがいよいよまわってきたことも、その時既にユキオの思考では理解できていなかった。
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