サイレントナイト~赤くて静かな夜~
「いいかガキども、この店はなあ、俺の愛やねん。
彼女や子供と同じか、それ以上の愛情があるねんで」

豊城は自分もビールを飲みながら、ケンジロウの前に泡のこんもりのったジョッキを置いた。

「いよっさすが。
生ビールつがせたらおっちゃんに敵うやつはいねえよ」

「あのなあケンジロウ、ラーメン褒めろっちゅうねん。
この店はなあ、俺がまだシュッとスリムだった高校生の頃や。
修学旅行で行った大阪でな、初めて『息吹ラーメン』を口にしてな、
そらあ感動したわけや。それでな、進学を諦めて、高校卒業してからすぐに、なーんのツテもないまま大阪に渡ってな、
『息吹』に弟子入りしたわけや。
それから7年、大阪で修行してなあ、やっと念願だった東京での『伊吹』一号店をだしたわけや。
美味しいラーメンをいつでも食べてもらいたいっちゅう思いから24時間営業にしてな、
そらあ24時間休まず働いてなあ…」

「その頃奥さんと子供に逃げられただろ。
おっちゃん餃子二皿追加」

「あほ!
はいはい餃子な」

豊城はため息をついて、カウンターに背を向けて餃子用の鉄板に向かった。
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