サイレントナイト~赤くて静かな夜~
八丁堀はそれには答えなかった。

「ちょーさん?」

オカジマが作業の手を止めて八丁堀の方を見た。

「なあ、宗ちゃん、社長はさあ、あの時期何をしていたんだろうね」

「あの時期?」

オカジマは眉を潜めて八丁堀の言葉を待った。

「不況でこの工場がずーっと赤字だった時さ、数ヵ月間受注がゼロなんてこともあったわけ。
いつ倒産してもおかしくない状態が何年も続いてたの。
でもさあ、数ヵ月なーんにも仕事がなくてもね、不思議と経理は赤字にならないんだよねえ」

八丁堀はなおも続けた。

「従業員がみんな辞めちゃってもさあ、社長は工場に顔を出さなかったんだよねえ」

「助かるよ。
ちょーさんまで辞めてたら岡嶋はつぶれてた」

「私はね、岡嶋社長の腕に惚れてたの。
社長の技術はすごいんだから。
最新の機械にはね、必ず岡嶋の技術がはいるんだから。
それなのに、社長は工場にでてこなかったねえ。
まるで、何か他のことで頭がいっぱいだったみたいだよ。」

オカジマは、黙って作業に戻った。

八丁堀は手を止めたまま、

「しかも、なんでまたあんな死に方をしちゃったんだろうねえ」

と、独り言のように呟いた。

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