サイレントナイト~赤くて静かな夜~

おにーちゃんの背中

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「ユリ子、施設どうだ?ダチできたか?」

バイクのスピードを上げながら、オカジマは後ろにまたがるユリ子に叫んだ。

「うん。まあね。楽しいよ」

ユリ子が施設を抜け出すたびに、オカジマはユリ子をバイクにのせてドライブに連れて行った。

ユリ子はオカジマに言えなかった。

施設で友達が出来ないこと。
話し相手が、いないこと。

「ねえおにいちゃん、ユリはいつおうちに帰って
いいの?」

「そのうちな。
俺が岡嶋工業を復活させてやるから、そうなったらすぐ帰って来いよ」

「うん。おにいちゃん」

「しっかりつかまってろよ、ユリ子」

オカジマがバイクのスピードをあげると、初夏の湿った空気は爽やかな風にかわる。

風をよけるように、ユリ子はオカジマの背中に抱きついた。

オカジマの広い背中にべったりと頬と体をくっつけて、温かい体温を感じるのがユリ子の一番好きな時間だった。

ユリ子がおにいちゃんを独り占めする、唯一の時間だと思ったから。
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