サイレントナイト~赤くて静かな夜~
14才の夏。

ユリ子が施設に入ってから、2年が過ぎていた。

初夏の暑い空気を感じながら、ユリ子は息を切らせて「岡嶋工業」の前にたどり着いた。

胸の奥からワクワクが込み上げてきて、ユリ子は笑いがこぼれる口のはしをどうにかこらえて、オカジマの部屋を見上げた。

児童養護施設から脱走して、オカジマに会いに来る瞬間。

ユリ子が一番心が踊る瞬間だった。

「おにいちゃん、今日は休みだからまだ寝てるのかな」

何度かけても、オカジマは電話に出ない。

駐車場を覗くと、いつものようにオカジマのバイクが2台停まっていた。

「ユリが起こしてやる」

意気揚々と玄関の扉を引いた時、ユリ子は思わず足を止めた。

オカジマの大きなスニーカーやサンダル。
作業場に入る時の黒ずんだ靴。

その横に、青い千鳥柄の小さなパンプス。

言い知れぬ不快感を感じて、ユリ子は玄関の奥の階段を見上げた。

音をたてないように靴を脱いで、静かに階段を上がった。

薄暗い階段の先に見える扉は、うっすらと開いていた。

男女の交わる雰囲気。

古い木造の床のきしむ音。

女性のあえぎ声。

湿った熱気が、ユリ子の肌にまとわりつく。
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