サイレントナイト~赤くて静かな夜~
目の前の光景に、ユリ子は思わず息をのんだ。

一瞬何が起こっているのか、ユリ子には理解出来なかった。

大好きなおにいちゃんの大きなたくましい背中が揺れる。

背中の影から覗く褐色の肌が揺れる。

見慣れた窓際のベッドに、おにいちゃんと知らない女の影が重なって揺れる。

ユリ子は衝撃で固まった。

心臓が激しくドクンと波うち、息が止まりそうなほど苦しくなる。

なんとか後退りをすると、音をたてないように階段を下りた。

玄関を飛び出すと、後ろを振り向かないようにユリ子は走った。

開けたままにした玄関から、不愉快なあえぎ声がいつまでも聞こえてくるような気がして、ユリ子は耳をふさいで必死で走った。

その日を最後に、ユリ子が岡嶋工業に足を踏み入れることはなかった。
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