サイレントナイト～赤くて静かな夜～

工場長の部屋

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「いらっしゃい！
おう、優介か。入れ違いだったな」

「伊吹」の、のれんをくぐったのは、仕事を終えた優介だった。

「つい今しがた、宗ちゃんが帰ったばっかりだよ」

豊城が、ラーメンの麺を湯切りしながらカウンターの優介に叫んだ。

「そう。教えてくれたら良かったのにな」

優介は携帯電話の履歴を確認したが、オカジマからの着信はなかった。

「いやそれがね、これ内緒にしといたほうが良かったかな」

「なに、おっちゃん。オカジマがここにきて悪いことないでしょ」

カウンターに水をおきながら豊城が声をひそめたので、優介は眉をひそめた。

「内緒にしてね。
さっき宗ちゃんね、姫芽ちゃんじゃない女の子連れてたのよ」

「へー。そう」

なんだそんなことかと優介はため息をついた。

姫芽がオカジマを好きなのは一目瞭然だが、二人が付き合っていないことも優介は知っていた。

いくらオカジマだって、束縛の激しい姫芽の目を盗んでデートくらいしたいだろう。

「年下みたいだったなあ。可愛い子だったよ」

何気なくつぶやいた豊城の言葉に、優介ははっと叫んだ。

「おっちゃん！それ、もしかしてユリちゃんじゃない！？」

豊城は驚いて優介を振り返った。
普段冷静な優介が急に大きな声をだしたのに反応したのだ。

「い、いや違うよ優介。ユリちゃんは小さい頃からお店に来てたから見間違えないっちゅうねん。
帰り際にその子の名前聞いたんやけど…
え～っとな…ど忘れやな…」

豊城はぶつぶつ呟いて、

「あ、そうそう、シズカや！
色白でなあ、大人しい可愛い子。姫芽ちゃんとは正反対。
あ、そんなこといったら怒られちゃうな」

、と言いながら、調理に戻るために優介に背を向けた。

「シズカ…？」

豊城の言葉を確認するように、優介は呟いた。

端正な顔立ちに、微かな歪みを浮かばせて優介は押し黙っていった。
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