サイレントナイト~赤くて静かな夜~
「どうも、これはこれはこんばんは」

男は、じっとりとした目でオカジマを見ると、唇の右端をひいて頭をさげた。

「どちらさんですか。
あいにく、工場は終わってましてね」

オカジマの言葉が終わらないうちに、男はいきなり玄関の敷居をまたいでオカジマの肩に手をおいた。

「いやあ、君が岡嶋君の息子さんか。
いやいや、立派になったものだねえ。」

反射的にオカジマは身を引いた。

グレーのシャツに、カーキ色のスラックス。
ボサボサの髪に笑顔をにじませたその男の顔を、オカジマは知らない。

そんなオカジマの心境を知ってか知らずか、男は間髪入れずに次の言葉を続けた。

「よく見ると、岡嶋君にそっくりだねえ。
うんうん、その意志の強そうな目なんかねえ。
あ、ああ…ええと、
遅くなりましたけれどね、岡嶋君の事故は、本当に不憫なことでした。」

男は妙にふかぶかと頭をさげた。

「それはどうも。
で、今日はどういったことで?」

「いやいやいや…
あ、これは申し遅れましたね。
私、杉崎です。
岡嶋君とは、以前に仕事でご一緒したことがあるって、そうゆうわけです。」

「杉崎…さんですか?」

オカジマは、ついさっき目にした、父の残した赤いファイルの図面を思い出した。

「岡嶋幸助

杉崎春夫

白石克」
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