サイレントナイト~赤くて静かな夜~
「なにこれ」

オカジマの大きな男物の靴に混じって、明らかに女性物の見慣れない小さなパンプスが一つある。

瞬間、姫芽はバッグを放り出して二階へ走った。
オカジマの家に女物のパンプスがあるのを見たのは初めてだ。

心臓が喉の奥から飛び出してきそうな不快感を感じる。

思えば、オカジマはいくら姫芽が迫っても、体の関係から先に進もうとはしない。
「どうして付き合ってくれないの」
と聞いたところで笑ってごまかすばかりだ。
だから、姫芽にはどうしてもぬぐいされない不安があった。

もし、オカジマに自分の他に思いを寄せる女性がいたら?

自分が仕事に出ている間、自分以外の女が部屋にいたら?

階段をかけ上がると姫芽は、オカジマの部屋の扉を勢いよく開けた。
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