白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
一方、紗枝は福田屋に戻ったあと、ずっとふさぎこんでいた。
(なんともはしたない所を常篤様に見られた…)
恥ずかしさと、もう二度とあの場所に行くことが出来ない辛さに涙があふれた。
(この運命は、私の生まれながらに定められたもの?いや…私だけではない。この藩で苦しむ農民たちも同じ…。生まれてきたのは、このような飢餓や重労働に苦しみ死んでいくため?)
そう考えるとやりきれなかった。

しかし、紗枝は思った。
(私があのとき常篤様を再縁の相手として選んでいれば…常篤様は福田の手のものに命を狙われるようになったはず。それを止められただけでも私の生まれた価値はあるのだ。この情婦のような生を常篤様と故郷のご両親のためにむさぼり縋(すが)るのも、決して無意味ではない)
そう自分をなぐさめるのであった。

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