白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
紗枝は自分の村でも多くの若者が労役に取られ、次々と棺になって返ってくるという噂を耳にしていた。
「では・・・民のために常篤様は諏訪様をお切りになると・・・?」
「はい。しかしながら、この二年・・・ずっと悩んでまいりました。ここで諏訪を斬ることが本当の民の幸せにつながるのか。もしかしたら、諏訪の政は、これからの松代藩を救うのではないか・・・と。」
紗枝は黙ってその話に聞き入っていた。
(このような話をなぜ今私のようなものになさるのか・・・)
それが不思議だったのである。
「私の一族が伝承してきたこの刀は・・・古く信玄公より使わされた、切捨て御免の『白桜の剣』です。これは『民の剣』とも呼ばれ、この松代を治めるものが民を無意味に苦しめ虐殺するときには、迷わずその元を斬れ、と命じられて伝わってきたもの。
この先祖信玄公の命に従い、私は今、諏訪を斬る覚悟を決めました。」
「・・・そうですか。しかしなぜ、私などにそのような重大な秘密を打ち明けられるのですか?」
「・・・というのは、実は表向きの理由。」
そういうと常篤は子どものような微笑をうかべた。
「要は・・・紗枝殿を玩具にした諏訪が許せなかったのかも知れません。」
「は?」
紗枝は驚いた。
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