白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
さらなる開墾を強引に進める諏訪の政で、確かに藩内の石高は一万石以上の農地が確保できた。
しかし、その成果に対し、死者の数は…しかも最も大切な働き盛りの男たちを失った甚大な被害は、あまりに大きすぎた。
そして、なにより、そのことで生まれた悲しみは、今は藩すべてを包み込んでいるではないか。
村ではこの冬半数近い村民が死に、多くの孤児が出た。
(人の命をなんと心得るか!)
常篤の中にたまりにたまった怒りがこみあげてくる。

佐助より、この度の政の裏には、口べらしの狙いもあり、これを諏訪は黙認し、いやむしろ積極的に押し進めたと聞いた。しかも飢餓を救済する政策はいくらでも可能であったにもかかわらず何ら行わなかったのである。まさに『見殺し』であった。
中には村ごと一夜にして女子どもが連れ去られたこともあり、夜盗や盗賊がやった体にして焼きい払われた村すらある。

その報告を聞いたときも、
「わかった。」
と頷いただけであった常篤だが、握り締めた拳からは血がしたたり落ちていた。
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