白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
しかし、敵もさるもの、石州は、その剣を上段からふりぬいて下を向いていた刀を、つっかえ棒の要領で支えにして後ろへ反射的にそらした。
(昨夜の異変に一人気付いた事といい…やなりこの男只者ではない…)
常篤がつぶやく。
常篤の放った牙突は、思った以上に早く石州が体勢を後ろに反らしたために、その軌道が変化し、そのまま石州の左肩に刺さった。
「ぬうっ!」
石州はうなりながらも、その刺さった刀を気にせずに一気に常篤を斬り倒そうと剣を残った右腕で振り下ろそうとした。
そのときである。
上段に振り上げられた石州の手から、コマ送りのようにゆっくりと刀がこぼれ落ちた。
その刀は見ているものにゆっくりとした残像を残しながら落ちてゆく。

「なるほど…秘剣とは…よく言ったもの…白桜の奥義の正体は…弐の太刀であったか…」
口から血を吐いて倒れこむ石州の胸には、常篤の懐から抜かれ、一瞬のうちに差し込まれた短刀があった。
「これぞ白桜の一撃必殺の奥義・・・石州殿・・・敵ながら見事なり!」
そういうと常篤は、迷うことなくその短刀を引き抜き、さらに容赦無く石州の頚動脈をそのまま切り裂いた。
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