白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
しかし佐助は首を振ってこれを諌めた。
「恥じても生きよ、との殿の仰せにございます。常篤様は、あなた様に生き延びることをのぞんでいらっしゃいます。それでも自害なさる、と申すのでしたら、私は止めはいたしません。」
そういうと佐助はもう一頭の馬に飛び乗って、矢のごとく走り去っていった。
(佐助様・・・どうか・・・常篤様をお願いします)
紗枝が手を合わせて佐助を見送る。
紗枝が佐助の残した供のものに言う。
「私は・・・生きます。ただ・・・できるのなら、もう一目だけ、遠くからでかまいません・・・もう一目だけ常篤様をみとうございます。あとはすべて、御意のままに従います。」
紗枝の目から大粒の涙が零れ落ちる。
(私が汚れ、生き恥をさらそうとも生きることが常篤様の望みなのであれば・・・生きていきまする。)
紗枝に迷いはなかった。

事前にこのような紗枝の言葉もあると予測し、聞かされていたのか、その男は黙って紗枝の後ろに飛び乗り、そのまま常篤の領内に向けて馬を走らせた。
「遠くから・・・でございますぞ。」
小さな声でそうささやくと、男はさらにむちを入れて馬を走らせた。
福田の屋敷から常篤の領内まで、馬の足をかりてもかなりの時間がかかる。それこそ常篤の身を案じる紗枝にとっては、千里の道を走るよりも長く遠く感じた。
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