白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
一件は、彼女の家柄には及ぶもない低い階級の商家であったが、裏家業としての『金貸し』が隆盛を極めていた福田屋の一人息子、福田次郎という男であった。数年前、福田家では、長男を若くして亡くし、さらに立て続けに夫までもが病気で亡くなった。そして、次男であった次郎が母親を盛り立てて、たった数年で福田屋を藩内随一の商家にのし上げたのである。
当時、藩内を破竹の勢いで席捲している『諏訪様』の寵愛を受けていたこともあり、福田屋は、この春、朝廷より新しく冠位までをも拝領した。今やこの松代藩においても、並ぶもののいない商家へと大躍進したのである。

もう一件は、数十石のふちをとり、武家としてはほんの小さな勢力しか持たない武家出身の庄屋であったが、その人情に篤い性格から、民に愛され人格者でなる男であった。身分としては申し分なく、遠くは武田家の血を引く子孫であるという噂もあって、これは紗江の生家と何かしら縁があるのではないかと思わずにはいられない相手であった。
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