白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
しかし、紗江はこの縁談に対して、どちらに対しても乗り気では無かった。
むしろ『どちらを選ぶか』ではなく、『いかに断るか』ということばかりを考えていた。

紗枝の両親も、まだ紗枝の前夫の喪があけて間もない今、急ぎ縁談をもちこむ周囲に嫌悪感すら示したが、民から愛される領主が縁談を持ち込まれることは仕方なく、それを無碍に断ちきることはできなかったのである。
(まだ前の夫を亡くした心も癒えてないだろうに…)
母は毎晩のように娘の運命を想い涙を流した。
「でもこのままでは、どんどんと縁談が持ち込まれて、結局は紗枝を苦しめることになりましょうねえ・・・」
「こんなときは、武家などという大仰な身分や立場などに生まれてこなければよかったと思うのお。」
母の肩を抱きながら、父がそうつぶやく。
< 15 / 182 >

この作品をシェア

pagetop