白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
そんな中、重い口を最初に開いたのは、斬られた諏訪頼重の親類にあたる、老中諏訪義正であった。
「この度の暗殺。その意図は理解できども、やはり主人殺しは主人殺し。これをなんの咎めもなく許したとあらば、真田家の家臣は腰抜けの集まりとそしりを受けよう。」
諏訪派の一同がうなずく。
「ここはなんとしても、常篤には自決を求め、これを事後報告として殿にお伝えすべきだ。」
「場合によっては、ワシらで内々に常篤を斬ってしまえばよい。」
そういった過激な意見すら出た。

また、さらに事態を重くしたのは、この密談を反諏訪派が聞きつけたことである。これによって、いまや城代家老という重職を失った真田家は一致団結して、藩政の回復と再構築に望まねばならぬというのに、逆にお家騒動が始まって、いまや藩政は完全に空白の状態になりつつあった。
「諏訪の専制を命掛けで止めるなどと、誠にあっぱれ。これは殿とご公儀に仔細をつげて、お許しを乞うべきだ。さすれば、民心一致して、これからの松代の発展に一身につとめよう。これこそが真の政ではないか。」
と反諏訪派が言えば、
「国家の重鎮を問答無用に斬り捨てた狼藉ものを斬首にせねば、国の政が成り立たぬ。」
と諏訪派が言う。
「それであっても、密談などして地下牢に閉じ込められ、何もできない常篤を斬ろうなどと、武士の恥である。」
反諏訪派は密談のことを挙げてこれを攻め立てる。

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