白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
一方、江戸屋敷にいた松代藩主真田幸民はようやく島津公に目通りがかなうことになった。
「これはこれは幸民殿。久しぶりだの。」
「ご無沙汰しております。」
幸民が神妙な面持ちで頭を下げる。
「わしも忙しゅうて、なかなか時間が取れんで、すまぬのう。」
「いえ。こちらもご無理を申し上げましたこと、平にお許しのほどを。」
「して、どういったご相談かな?」
ズバりと切り込んでくる。
「実は、我が藩にて・・・」
幸民は、現在収拾した情報のすべてを話した。
すべて話し終わると、島津公は
「それは、いち早く常篤殿をお救いなされ。」
即決であった。
「しかし・・・」
「しかしも何もない。これからの時代を作る人材をあたら失うことは、何万石の領地の損失よりも大きいことがある。それがわからぬ幸民殿ではなかろう。」
「はっ。」
幸民は恐縮した。相手の迫力に飲まれたのもあったかも知れないが、それ以上に自分が思うところと合致したのが大きかった。
幸民は、あわてて礼を述べて退出すると、あわてて江戸に向けて使者を飛ばした。
『決して常篤を切腹させぬよう厳命す。常篤の沙汰は追って致す。それまでは食客扱いにて丁重に城に留め置くように。』
との簡略なものだ。
使者を送り出すとき、幸民自ら使者を激励した。
「松代藩の未来がこの一通にかかっていると思え。一時でも早く到着するよう、身命を賭して走れ。」と。
使者は感激し、夜も徹して馬を走らせ続けた。
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