白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
そして、常篤が死んでいらい、水と少しの粥しか口にしなかった紗枝はその年の冬を待つことなく死んでいった。
安らかな死であった。
寺の住職は、彼女に
『愛善院常枝信女』
と戒名し、常篤の墓の裏側に小さな墓標を立てた。

こうして紗枝はついに死してようやく、未来永劫常篤のそばにあることをなしえたのであった。

この段階で、本物の武田仁左衛門常篤が早くに命を失っていたことを知っていたのは、佐助と秀五、ひそかに葬儀にかかわった寺の僧侶や尼僧たち、さらに紗枝の両親、真田家の一部の家臣だけだった。従って、常篤の死は民に知られないように隠蔽され、本当の死を知る民は誰もいなかった。
よって、常篤の墓標は今もひっそりと山奥に存在するのである。この後、常篤となった佐助が姿を消し、京から江戸をまたにかけて秀五が明治維新の立役者として暗躍するのであるが、この話はまた次に機会に譲るとしたい。
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