白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
「いやいや…」
手でそれを制止して常篤は言った。
「あなたのお心遣い、この常篤ありがたくお受け取りいたしました。なれど常篤、まだまだ妻をめとるなどできる立場にありませぬから。」
涼しい笑みを見せられた産婆は、それに照れたように赤く頬を紅潮させながら、
「また仁左衛門様にいい話を持ってくるけえ…」
と言った。
その時も常篤は、
「いやもうそのお話は…」
と言いかけたのだが、それを止めた。
(この村の誰もが今や自身の生活もたちゆかぬのに自身の縁組にまで気をかけてくれる。)
その気持ちが単純にうれしかったのである。何度も何度も振り返りながら帰っていく老婆の姿を見ながら、仁左衛門は心がちくりと痛むのを感じた。

(やはり、この藩の民の窮状をなんとかせねばなるまい)
それ以来、仁左衛門は領内の見回りを済ますと、それからは決まって城下を流れる川べりで日が暮れるまで、考えにふけるようになった。

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