白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
しかし…今の常篤にはそれができなかった。
(熱き時代のうねりの陰でいつも犠牲になるのは、それを支える民なのだ。それを救わずして何が武士だ。何が武家だ。血を吐きながら貧しさに耐える民の上前をはねるだけの武家などに何の存在意義があろう。)
常篤はそう考える。
しかし、その一方で、すでに民の多大な犠牲を強いつつも、藩の改革を始めてわずか、この短期間で諏訪は家老の権限を最大限に利用、ついには藩が抱える数万両ともいわれる借金をほぼ返し終えたという。いや、これは正確には『改革』ではなく、『搾取』なのだから、大変なのはすべてを奪われたこれからである。

(私に家老が斬れるか…)
いつしか常篤はそのことを考えるようになっていた。
しかし、家老諏訪頼重なる人物のことはまだ噂でしか聞いたことがないのだ。
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