白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
やがて、女が川の中を歩く音が聞こえ、そして、それは川原の上の石を踏む音に変わった。
「このような場所で水浴びをなさってるとは思いませんでしたので・・・。」
後ろを向いたまま常篤がいう。
「いえ・・・私こそ・・・はしたないところをおみせいたしました。」
「わたくし、この近くの村の庄屋をやっております、高村仁左衛門常篤と申します。」
「え?」
なんという皮肉であろうか。
(このような時に、このような場所で、自分が再縁の相手としたかもしれない男に出会うとは。)
「・・・私、紗枝と申します。」
「・・・紗枝殿・・・もしかして・・・私の以前の縁談のお相手でいらっしゃった紗枝どのでございますか?」
常篤も驚きを隠せない様子である。
「・・・そうでございます。」
(嘘をつけないこともなかったのに・・・)
紗枝がそう思ったときにはもう遅かったが、しかし、なぜかこの人の前で、それはしたくないと直感的に感じたことも確かである。

「あの・・・もうしわけございませんが・・・何か体を拭くものを用立てていただけませんか?」
紗枝がいった。
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