白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
実際、紗江自身にも自分をそうさせるのが何なのか、わからなかったのである。夫やその家族への感謝や尊敬はあったが、執着のような感情は無かった。そして、婚前できなかった親孝行をしたいという思いもあったことは確かである。
しかし、この時代に亡くした夫の郷里を離れ生家に戻ることが果たして周囲の目をも考えると『孝行』であったかは疑問である。

(いずれにせよ…もはや決めたこと)
故郷への道を急ぐ彼女の上に、また雪が降ってくる。
時々彼女はその端正な顔で雪空を見上げる。どこまでも広がる空。無限の広がりを見せる空。彼女はその雄大さにいつも心を躍らせる。私生活ではあまり心を動かさない彼女であったが、雪が舞い降りてくる空をながめるのが特に好きであった。放射状に落ちてくる美しい自然の宝石。
< 5 / 182 >

この作品をシェア

pagetop