白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
(・・・さぞ怨嗟の声に満ちておろうな。)
常篤はいつも犠牲になる民のことを思うと胃のあたりがキリリと痛み・・・腹をおさえるのであった。
(われわれの数倍の追加上納を強いられている諏訪領内の民・・・)
常篤は、その惨状を思うと胸が痛んだが、他家の領民のことも気になる。場合によっては、諏訪に対する何らかの新たな情報を得られるかも知れない。
そう思った常篤は、さっそく諏訪領内を訪ねた。しかし、意外であったのは、この土地が確かに水路・土地・水はけと藩内でも特に恵まれた場所にあることは知っていたが、ここに住む農民たちがこの凶作に喘ぐ藩内では間違いなく一番活気ある
ことであった。
(・・・なぜにこのような?)
常篤に疑問が次々と沸き起こった。
自分たちの痩せた土地と比べてはいけないとは思ったが、それでも常篤は他の所領と同じように、農民が塗炭の苦しみを味わっていることを想像していたのである。
まして、藩内の厳しい財政改革の一人者である諏訪の所領であるから、農民たちはより厳しい搾取にあって、苦しんでいるのではないかと考えていた。
< 55 / 182 >

この作品をシェア

pagetop