白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
「見事。」
常篤もうならずにはいられなかったのである。
その時である。常篤は今までに感じたことのない気配を感じた。
(・・・何奴?)
常篤は自分がその気配に気付いたことを悟られないようにゆっくりと歩きはじめた。

その気配はいまや常篤にまとわりつくように・・・しかし、常篤がそれに気付いたそぶりを見せれば、いつでもその距離を離脱できるか、または一気に襲い掛かるか。それはまさに絶妙の距離感をもってついてくるのである。

常篤は覚悟を決めた。さりげなく一件の民家の裏に身を隠すと、刀の柄に手をかけ、タイミングを見計らって、一気におどりでた。

しかし、そこにもう先ほどまでのまとわりつくような殺気は残っていなかった。

(逃げられたか。しかし、ここには表向きには見えない何かが必ずある・・・)
そう直感した常篤は、なぜこのような政ができるのか、そして、あの殺気の正体は何なのか、それを確かめるために度々この諏訪領を見聞するようになったのである。

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