白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
彼女がそうやって空を見上げると、粉雪が彼女の切れ長な瞳の睫にふれ、目元に自然の化粧を成す。その雪はそこに美しい小さな真珠の粒を散りばめる。
紗江はその『化粧』を振り払うこともなく、またゆっくりとその雪の中を歩きはじめた。その姿は何よりもまず美しく、儚くも優雅であり、時折彼女とすれ違う人の目をいやおうにもひいた。
そんな紗江の帰る郷里。両親は、古くは甲州武田家の武家の出で、信玄公の存命中は、家老にまで出世した武将の子孫である。彼女は幼い折から、この時代特有の儒教思想を叩き込まれ、武家の娘として厳しく育てあげられた。決して豊かではないが、不自由なく育てられた彼女は、この時代の『武家の妻』たるものの役目を果たすべく教育され、そして、そう生きることだけを『人の生きる意味』として教えられてきた。
紗江はその『化粧』を振り払うこともなく、またゆっくりとその雪の中を歩きはじめた。その姿は何よりもまず美しく、儚くも優雅であり、時折彼女とすれ違う人の目をいやおうにもひいた。
そんな紗江の帰る郷里。両親は、古くは甲州武田家の武家の出で、信玄公の存命中は、家老にまで出世した武将の子孫である。彼女は幼い折から、この時代特有の儒教思想を叩き込まれ、武家の娘として厳しく育てあげられた。決して豊かではないが、不自由なく育てられた彼女は、この時代の『武家の妻』たるものの役目を果たすべく教育され、そして、そう生きることだけを『人の生きる意味』として教えられてきた。