白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
さらに、紗枝には月の何度かの『お城勤め』があった。もちろん、諏訪の元へ赴き、届け物をし、その後諏訪の相手をするのである。紗枝が福田屋から外出を許されたのはこのときだけであり、この時の送り迎えには供と称して、実のところ監視役である番
頭をつけられた。
(まさか、いまさら逃げもしまいに・・・)
番頭もそう思いはするのだが、主人の命とあらばこれを拒否することはできない。

何度か紗枝を逃がそうかとも考えたが、もしそうしたところで、すぐに追っ手がつき、場合によっては紗枝はもっとひどい目に遭わされるやもしれない。なにせ相手は、紗枝のことを性の玩具と小間使いぐらいにしか考えていないのだ。追っ手には殺さない程度に紗枝を殴り、犯してもかまわないと命令をすることも十分に考えられる。

番頭はそう思うと、紗枝を正視できず・・・そして、それが紗枝の心には番頭が悪い人間だとは思っていなくとも、
(汚れた私を憐れみさげすむ目・・・)
と感じさせるのである。

この状況は、紗枝にとって、より人に助けを求められず、自分を追い込み孤立させる悪循環となっていったのである。そういう意味ではこの次郎のやり方は紗枝を助けようとする周囲から紗枝を引き離す絶妙の心理作戦だったとも言える。
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