白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
そう聞けば聞こえはよいが、草木がぼうぼうと生え、石ころであふれかえる荒れ放題な土地を田畑へと開墾するのは並大抵のことではなく、労働環境も劣悪なこの作業によって多くの農民が死んでいった。

これは、この前の時代、豊臣秀吉が中国大陸を手中におさめるべく征伐軍をおこしたときの難、近世でいえば、日本の満州進出での難を思い起こせばわかりやすい。単純に開墾し、農地にするというだけで、恐ろしいほどの時間と人間と、そしてなにより多大な犠牲が出るのである。

開墾した土地が自分のものになるという大義名分があっても、飢えた貧しい民にこれをさせることは、決してアメとムチでいう『アメ』には到底なりえないのである。
これによって江戸での松代藩改革への驚嘆や諏訪への評価の華々しさとは、驚くまでに反比例し、藩内での諏訪への怨嗟の声はどんどんと高まっていった。

年が明けて、春になり、雪が解け始めると、この開墾作業はさらに急ピッチで進められた。多くの民が過労と餓え、病気や事故で死んでいった。
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