白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
「おっかあにおこられる」
その子供はいまにも倒れそうな震える声でそう答えた。もはや村の惨状は子供が飢えで倒れるまでいっていることは明らかであった。
「そちがくわぬなら・・・このむすびは捨てるぞ?」
そこまで常篤が言ってはじめて、その子供は力なく笑顔をみせ、常篤のところにふらふらと寄ってきた。

「じゃあ・・・食べてもいいの?」
「よい。そなたが食わぬなら捨てるものであったのだ。捨ててあったと、おっかあには言えばよい。」

それを聞くやいなや、その子供はまるで誰かとそれをとりあうようにその握り飯を急いで口にした。その子供が握り飯をほうばりながら、はじめて子供らしい笑顔に戻ったのを見て、常篤はこみ上げてくるものをおえられなかった。
(わが領内にもこのような行き届いた道徳をもった子どもがいる。こんな子どもですら、腹がすいてもそれを乞うことをしない。)
そのことは常篤の心に強く響いたのである。
(このような子どもたちを・・・いや民を守らねばならない。諏訪にどのような大義があれど、このような命をむやみに犠牲にしてよいはずがない!)
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