白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】
(背後を取られた以上は…奇襲しかない…)
流れるように繰出されたその斬撃は一瞬刀身のまわりを真空にして…きっさきがその男の頭巾をかすめた。おそらく常篤の差していたものが白桜の長刀でなければ、触れることすらできなかったであろう。それほどに相手の動きはすばやかった。

常篤は頭巾をかすめて相手の頭の上に抜けた、その刀のきっさきを一瞬で180度回転させるとそのまま流れるような動作で立ち上がりつつ踏み込み、次の一撃を上段から叩き落とした。
「…」
男は無言のままその一撃を左腕で受けとめて、懐に差し入れた右手を抜いた。
(む…左腕に鋼を仕込んであったか…)

その男の右手に握られた短銃が常篤の左胸に当てられるのと、再び放たれた常篤の刀が男の首筋に当てられるのがほぼ同時であった。
二人の動作が計ったようにピタリと止まる。
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