KEEP OUT!!
「いや、日下さんから連絡を受けたときはびっくりしました」
ひとくち珈琲を飲んで、深く椅子に腰かける先生。
少し、シワが増えたのかな?
当時も落ち着いた雰囲気があったけれど、今はそこに年齢が醸し出すなんともいえないやわらかな空気が加わったような気がする。
「すみません、急なお願いをしてしまって」
「いえいえ構いませんよ」
にこにこと人懐っこい笑みに、ついこちらもつられて顔がほころんでしまう。
でも先生ってこんな風に笑う人だったろうか?
昔はどこか、やさしい雰囲気の中に薄い1枚の布がある印象だったような。
「それにしてもよくありましたねぇ」
両手で包んだカップを膝の上に置き、八重ちゃんがある方向を向く。
その視線の先には、白い布に包まれた1枚のカンバスが壁に立てかけられていた。
「捨てることはあまりないんですけどね。それとは別に、個人的に印象の深い絵だったのですぐに保管場所を思い出せたんですよ」
そう。
わたしはここに、かつて亮平にあげる予定だった1枚の絵を取りにきたのだ。
どうして今さらになってそうしたのか。
それは、
「個展を、開くそうですね」
と、いうわけだ。
「そんな大層なものじゃないですけどねぇ」
「でもよく考え付いたよね。ピアニッシモでやるなんて」