KEEP OUT!!
「単純な気持ちの押しつけは自己満足だが、そいつを押し殺して苦い顔なんてしてみろ。そんなやつの顔みながら味を楽しめるか? 俺なら願い下げだね」
「あ……」
「そういうときはな」
カウンターにもうひとつ豆を置くと、草にぃはそれを最初の豆に寄り添わせ、
「“こういう飲み方も悪くないですよ”ってひとことを伝えるのさ」
それは相手の気持ちを尊重しつつ、自分の気持ちもしっかりと伝えるということ。
選ぶのは相手次第。
けれど、選ばれることを鼻からあきらめていたんじゃ、いつまでたっても自分の気持ちは陽の目をみない。
そう草にぃは付け加えた。
「可能性ってやつは、種だ。陽の光にあてねぇと絶対に芽吹きやしない。腐っちまうだけだ」
豆をさっ、とつかんでフライパンに放り込み、他の豆も加えて煎り始める。
「そりゃまゆみが他のやつとキスなんてしてりゃ嫉妬したり腹が立ったり、へこんだりするだろうさ」
ゆっくりと、丁寧にフライパンをゆすっていく。
なんともいえない芳ばしい、奥に甘みを感じる香り。
「だからってな。頭ごなしに否定したり悲観する前に、やるべきことってのがあるんじゃねぇか?」
やさしい香りが店内に拡がる頃。
気付けば窓の外から雲間を縫って、陽のカーテンが射し込み始めていた。